ニンジャH2 SXをベースにした水素試作車
カワサキモータースは、2023年12月12日に開催された「グループビジョン2030」の進捗報告会にて、水素エンジンを搭載した二輪車の試作車を初公開しました。ベースとなったのは、大型スポーツツアラーモデルである「Ninja H2 SX」です。外観はベース車の特徴を色濃く残しつつ、後部に水素タンクを搭載するなど、新しい要素が加えられています。
今回の試作車は、量産メーカーとして初めて本格的な走行を視野に入れて開発された水素エンジン搭載バイクとして注目されています。展示された車両には実際に水素タンクが搭載されており、走行用エンジンとして完成度の高い仕上がりが見られました。デザイン面ではH2 SXのボリューム感や空力性能を活かしながら、水素仕様ならではのパッケージングに再構成されています。
この車両は単なるモックアップではなく、2024年からの試験走行が予定されており、公道やクローズドコースを使った走行データ収集が始まります。カワサキの本気度が感じられる一台です。
水素燃料の直噴エンジンを搭載
この試作車の心臓部となるのは、998ccの直列4気筒スーパーチャージドエンジンです。従来のガソリン仕様とは異なり、水素を筒内に直接噴射する「筒内直接噴射」仕様に変更されています。水素はガソリンに比べて燃焼速度が速く、制御が難しい特性を持つため、ノッキング防止や燃焼安定の工夫が重要です。今回のエンジンはそうした課題への対応を踏まえた設計になっており、従来の出力感をなるべく維持しつつクリーンな燃焼を目指しています。
燃料供給には、トヨタの燃料電池車「MIRAI」に採用されている高圧水素タンクを流用。2基のタンクで合計約2kgの水素を供給できる設計となっており、市街地走行や試験走行には十分な容量です。車体後部のスペースを活用して配置されており、低重心を意識した取り付けが施されています。
また、従来のガソリンエンジンと異なり排出ガスにCO₂を含まないため、走行時に温室効果ガスを出さないという環境面でのメリットも大きいとされています。電動バイクとは異なるエネルギー選択肢として、水素エンジンの存在感が改めて注目されていくでしょう。
実用化は2030年代初頭を視野に
この水素エンジンバイクは、2024年からの本格的な試験走行を皮切りに、2030年代初頭の実用化を目指して開発が進められています。車体構造の最適化、水素供給設備の整備、安全基準への対応など、課題は多岐にわたりますが、カワサキは段階的にステップを踏んで実用化に向けた取り組みを加速中です。
また、同社は水素バイクの開発を単独で完結させるのではなく、川崎重工業を中心とするグループ企業や、自動車業界の先進企業とも連携。水素供給網や法規制への対応といった社会的課題にも関与しており、技術と社会の両面から環境対応型モビリティを模索しています。
将来的には、同様の技術を他のモデルにも展開する可能性があり、バイク市場における選択肢の拡大が期待されています。電動化一辺倒ではないアプローチとして、水素エンジンバイクが持つ価値は、今後さらに注目を集めていくことでしょう。